12/17

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この前も言ったことだが、冬場の天気は曇っているのが好きなので今日の空はとても落ち着いた。おまけに気温が寒すぎなくて最高。というか今年全体的に暖かくて、寒がりの俺にとっては天国だ。

 

今日はヘルプということで、最寄り駅近くの店舗にバイトに行ってきた。この店舗に入るのは二回目なのだが、作業量が多すぎず少なすぎず、客も多すぎず少なすぎずで非常に働きやすい。コンドームの真横にサバ缶が陳列されているなど、独特でパッション溢れる店内構成も魅力的だ。

 

コンドームといえば、中学生時代にコンドームに関する想い出がある。

俺は中学校三年生の夏休みという非常に中途半端な時期に転校を経験しているのだが、その転校を控えた最終日、夏休み前最後の学校の日のことである。

既に転校を公言していた俺は、皆と最後に学校で会う日が近づくにつれ、プレゼントをよく貰うようになっていった。プレゼントといっても中学生だ、ハンカチや文房具などが主流で、気持ちのこもったそれらに俺は感謝するばかりだった。

最終日、当時仲が良かった少しやんちゃな友達が、教室で俺にビニール袋を手渡してきた。プレゼントだと言うので中を覗いてみると、そこにはコンドームが入っていた。純度100%悪ふざけである。

中学生ということもあり、教室は男子生徒の歓声で沸いた。引っ越しを控えた、本来ならば主役になるべき俺を差し置いて、コンドームを買ってきたそいつが教室の英雄のように囲まれていて悔しかった。ホームルームで先生の話を聞いている時も、皆ずっと俺の方をニヤニヤ見てきた。俺と言うよりは、机の横にぶら下がったビニール袋を見ていた、と言った方が近いだろう。恥ずかしい。恥ずかしいが、良く考えたら俺はこの学校に通うのは今日が最後なので、マジでどうでも良くなってきた。

 

放課後、いつものメンバーで家まで帰る。その日は部活の集合写真撮影があって、ソフトテニス部だった俺といつもの帰宅メンバーたちは、引退後にも関わらずラケットを持っていた。

だらだら話しながら、感傷に浸る俺。今日でこのメンバーで帰るのも最後か。そんな中、俺は今日プレゼントとしてコンドームを貰った話をした。途端に沸くメンバーたち。見せろ見せろの大嵐。俺の引っ越しなんて関係ない、中学三年生の彼らにとって大事なのは友人の転校より目先のコンドームである。

 

先に言うが、当時の俺たちはとても常識が無かった。中学生なんてそんなものだとは思うが、地域性なのか何なのか、俺たちの周りは、後から聞く友人たちの中学時代の話と比べても、常識に欠如した者ばかりだった。

そんな俺たちは、路地でコンドームの開封を始めた。弱冠15歳の我々、実物を見るのは初めてだ。まるで宝箱を開ける時のようにキラキラした目で、箱を開ける。そのまま中のブツを取り出し、まじまじと皆で観察した。大人はみんなこれ付けてるのかな、三組の誰誰がこの前付けたって言ってた、などと、いくら15歳とはいえさすがに精神年齢が低すぎる会話を繰り広げる俺たち。そんな中、ある一人が口火を切る。

「なあ、これラケットにつけてみねえ?」

 

当時の我々にとって、それは革命であったような記憶がある。目の前にコンドームという面白があって、それをラケットのグリップにつけてみるというのだ。面白の二重構造に歓喜する俺たち。仮にも2年半続けたスポーツの道具に対する行為とは到底思えないが、当時の俺たちは厳しい部活の方針によってソフトテニスという競技に嫌気がさしていた。引退後の自由を噛みしめるように、俺たちは一つのラケットのグリップにコンドームを取り付けた。

コンドームをつけたところでなんだという話だが、当時の俺たちにとってはそれが面白くて仕方なくてゲラゲラ笑った。15歳である。何度も言うが、今大喜利をやっている15歳くらいの人々は皆自分が面白過ぎるという自覚を持った方が良い。

ひとしきり笑った後で、誰かが言った。

 

「ジャン負けしゃぶろうぜ」

ジャン負け。それは中学生男子にとって、何よりも不名誉な称号。ただジャンケンで負けただけなのに、中学時代はこのジャン負け一つで様々な辱めを受ける。

彼が提案した闇の遊戯は再び俺たちを沸かせ、そして悪魔のジャンケンが始まった。

負けたのは誰か覚えていない。ただ俺は、負けた奴が自分のラケットにコンドームを取り付け、それを口に咥えている光景を見た記憶があるから俺が負けたわけでは無いことを、ここに強く主張したい。

ラケットをしゃぶる彼を見て笑う俺たち。こんな奴ら今思うと全員高校に落ちてしまえば良い。

すると、その横を不意にバイクが走り抜ける音が聞こえた。

視界を移すと、それは我々ソフトテニス部の鬼顧問のバイクだった。学年主任も務める彼は、我々生徒が下校中変なことをしていないか(買い食い、コンドーム開封開封コンドームをラケットに装着、装着ラケットと口腔の接触など)見回っているのだ。

 

血の気が引く俺たち。すぐに頭を下げ、大声で「さようならー!」と叫ぶ。そして顧問のバイクが見えなくなるまで走る(これは部活のルールで、登下校中に顧問のバイクが通ったらそれを走って追いかけないといけない。引退後もついつい癖でやってしまう)。

顧問にしてみたらたまったものではない。2年半手塩にかけて育てた部員が、引退後に公然の場でラケットにコンドームを装着して遊んでいるのだから。

 

その後どうなったのかは俺が知る由もない。部活は引退しているし、そもそもその日が一学期の終業式で翌日から夏休みだということもあり、また顧問も俺たちが何をしていたのかあまり見ていなかったのだろう、呼び留めてまで怒られることは無かったし、新学期が始まって俺がいなくなった後もそんなことは起こっていないだろう。

ただ何となく、今日それを思い出した。

 

家に帰って昨日の夕飯の残りを食べ、スプシ大喜利をしてからディスコードでサイファーをした。かなり久々のラップだったが、腕は落ちていないどころか逆に少し上達しているような気さえした。無論元が下手くそなのでたかが知れているが、やっぱり楽しいのでついついやりたくなってしまう。もっと技術的なところを勉強すれば更にうまくなるのだろうが、今のところは遊び感覚で楽しくやっているだけで満足だ。これから先もっと上手くなりたいと思った時に、その情熱は取っておこう。