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今日のバイトは散々だった。

まず、偽硬貨を掴まされた。

うちのバイト先のレジはお客様から預かったお金を店員が投入して、レジが自動で清算してお釣りとレシートを吐き出し、それを店員が客に渡すシステムだ。この「店員がお金を投入してからレジ機がそれを読み込むまでの時間」が思ったより長く、お金をぴったり出していた場合、せっかちなお客様だとすぐに帰ってしまうこともある。

 

件のお客様は、弁当と飲み物か何かを抱えてレジにやって来た。普通に接客して、合計金額を伝える。1,000円未満だったはずで、そのお客様は全て小銭で支払った。吟味台(お客様がお金を置く台)に、無作為に小銭が置かれる。するとお客様はすぐに買った品物をカバンに詰め、今にも帰りそうではないか。俺も慌てて台にばら撒かれた小銭を数える。重なっているものもあったが、そこは高校時代から接客業をしてきた男の技能、小銭の色で素早く判断を行って、お客様が支払った小銭が合計金額丁度であることを確認してレジに投入した。「ありがとうございます」俺が礼を言うのを背に、お客様はいそいそと帰っていった。

 

ここで、レジがエラーを吐く。投入した小銭のレーンが空回り、何かが引っかかっているようだ。見ると、なんと先ほど俺が確認した5円玉が引っかかっていた、いや違う、これは良く見ると5円玉ではない!色は5円玉で穴も開いているからすぐには気が付かなかったが、めちゃくちゃ漢字書いてあるし質感も安っぽくて全然違う!やられた!

慌てて店の外へ走る俺。しかし錦糸町の街は広く、大通りに出るともうお客様はどこにいるのか分からなかった。

 

気づくか!!と思いながら店長に事の顛末を話すと、レジの金額を合わせる作業をしながら「次からは気を付けてね」となぜか俺が悪いみたいな感じを出された。悪意があったかどうかは知らんが、一番悪いのは出すだけ出してさっさと帰ったあの客だろうが!色も形も似てたら急いでいる時には気づかんわ!!

 

これはまあ、客が完全に悪いとも言い切れないし、俺に全く非が無い訳でもないのでまだ良しとする。

問題なのは次、外国人の客に殴られそうになったことである。

その二人組は大声で異国の言語を話しながら入店してきた。外国人のお客様は基本的に話声が大きいことが多く、その二人も例に漏れず明らかに異常な音量で怒鳴り合ってるかのように楽し気な会話を展開しているようだった。

二人が同時にレジに来て、お酒を何本か買っていく。その間、二人は喋りっぱなしで、こちらの問いかけに聞く耳も持たない。これも外国人のお客様に多いことだ。まあ仕方ない。そもそも日本という国のマナーが良すぎるのだ。多様性の時代、国ごとの文化の違いについては多少寛容になるべきだろう。

 

イクラデスカ?」

外人はカタコトで聞いてきて、俺は合計金額を伝える。

すると、彼は吟味台の上に持っている小銭を全部ぶちまけ始めた。明らかに合計金額よりも多い。オーバーキルだ。

「トッテ」

彼はカタコトで続けた。恐らく、日本に来たばかりでどの小銭を出せば良いのか分かっていないのだろう。これも仕方のないことである。態度も横柄であるが、これもまた文化の違いだと自分に言い聞かせ、吟味台に広げられた大量の小銭の山(マジで大量にあった)からなんとか合計金額になるよう何枚かの小銭を抽出する。100円玉を何枚かと50円玉を使い、残った10円玉や5円玉などを彼に返した。

 

すると、途端に彼の表情が厳しくなって、それはすぐさま怒りの色に満ちたものだと分かった。

「ナンデ?オカシイダロ!!!!」

彼は叫んだ。

「ナンデ オオキイノ ツカウ? オイ!!!!」

迫力満点の大声で彼が怒鳴る。

は?

は?と思って、実際に「は?」とちょっと言ってしまった。

要するに彼は、「小銭をあるだけジャラジャラ出すから、返って来る小銭の量がなるべく少なくなるような組み合わせでそこから使え。店員であるお前が全てそれをやれ。何も言って無くても察してやれ」というような要望を持ってレジにやって来たらしかった。

 

おぞましすぎる。いくら何でも横柄のレベルを超えているではないか。文化の違いなどで許容できる範囲ではない。そもそも小銭の出し方の概念が分かっているなら、最初から自分で出したいように出せば良い。全て10円玉で払いたければ、小銭をぶちまけて店員に選んでもらうのではなく、自分で10円玉だけを出せば良い。

彼がどんなにごねようと、俺はもうお金をレジに投入してしまった。ここから戻すことも勿論できるが、目の前のヤバい奴にそこまでの手間を割きたくなかったので、何食わぬ顔で「はい?」と聞き返した。

すると彼は目の色を変え、

「オカシイダロ!! フザケンナヨ!!」

と言いながら、返ってきた大量の小銭を握りしめた手を大きく振りかぶってきた!

 

あ、パンチを食らう、と思った。レジには店員側とお客様側に感染対策の間仕切り(プラバン)があるため、直接殴られることは無いと分かっていた。しかしそれでも、そのプラバンを突き破って拳が飛んでくるくらいの勢いを感じた。何より、こんな意味の分からない理由で理不尽な暴力を振るわれることが急に面白く感じてきた。

彼が拳を突きだそうとしたその寸でのところで、もう一人の男性が彼を取り押さえた。

「イイデショ カエタカラ」

もう一人の男性はなぜかカタコトの日本語で(俺に伝わるように?)彼を抑え、俺に軽く会釈して店の外へ連れ出していった。

何と言うことだ。バイト歴は長く、様々な職場を経験してきたが、客に殴られそうになったのは初めてである。なかなか貴重な経験をしてしまった……、と思いつつ、普通に全然腹は立った。この間仕切りが無ければ、もう一人の男性が止めていなければ、俺はどうなっていたか分からない。全く嫌になる。

 

その後、買ったばかりの商品を普通に店の中で(イートインスペースでも無い場所)で食べた客がいて、店長が「脱税だぜ~」と国税局のCMの仕事を貰ったスギちゃんみたいになっていて面白かった。

マジで今日のバイト何だったんだ。

 

バイトが終わった後大喜利に行って、そのあとやよい軒でご飯を食べた。やよい軒は全部のチェーン店のなかでもかなり上位の好きに食い込んでくる。チキン南蛮も唐揚げも美味しい。お代わりロボがボトボトご飯を落としてくれるので、背徳感がある。何より飲食チェーンにしては珍しく食器を自分で返さなくて良いのが、まるで王様気分を味わえて素晴らしいホスピタリティだ。

 

今日だけが原因では無いが、本当に疲れたので明日はマジで何もせず寝ていたい!何もせず寝るだけの日ってマジで本当に無いので、ここら辺で消極的休養(積極的休養の対義語だと思って使っている言葉)を取らないと!と思ったが、不動産屋に話を聞きにいかなくてはいけない。バイトを入れ過ぎて、こういうバイトの無い日にできることをやっていかないと……。ただまあ、最近ずっと6時間睡眠だったので、今日は8時間くらいは寝てやろうと思います。